AIロープレが生んだ「心理的安全性」と「デジタル人材育成」の好循環

イオンフィナンシャルサービス株式会社

イオンフィナンシャルサービス株式会社

業種:

  • コンタクトセンター

課題:

  • 研修負荷
  • 属人化
目的・課題
・対面では1対1の対応となることから、研修生の待機時間が発生し研修生一人あたりのロープレ実施回数も限られていた
・講師による指導内容にばらつきが生じ、研修品質の標準化が困難
・忙しい講師へのロープレ依頼に対する研修生の心理的障壁があった
選定理由
・シンプルなUIでロープレが可能:現場スタッフでも直感的に操作できる設計
・AIによるフィードバック機能:点数化による客観的な評価で、講師・研修生双方の納得感を醸成
・コスト対効果の明確さ:投資対効果を定量的に測定できる
導入効果
・ロープレ回数が1回から4回へ、研修生の実践練習機会を大幅拡充
・研修チームの受電件数が導入前実績比で目標144%に対して153%を達成。講師自身の受電時間と研修生のOJT機会が増加
・75名の研修生が3ヶ月間で約400回利用。緊張感なく反復練習でき、待機時間中に自己学習での活用も可能に
・副次的効果:AIシナリオ設計を通じて現場スタッフのAIリテラシーが向上。実務と学習が一体化した「デジタル人材育成」を実現

イオングループにおいて、総合金融事業を担っているイオンフィナンシャルサービス。同社ではオペレーター研修において、講師不足、指導のばらつき、そして研修生が講師にロープレを依頼しづらい「心理的障壁」が課題でした。

2025年8月にAIロープレを本格導入した結果、3ヶ月でロープレ回数は各案件あたり1回から4回へと増加、受電件数導入前実績比で153%達成(目標144%)を実現。さらに副次的効果として、AIシナリオ設計を通じた「実務で学ぶDX人材育成」という新たな価値も生まれています。

今回は、イオンフィナンシャルサービス CS本部 コンタクトセンター3部部長の小松史貴様、マネージャーの戸倉多恵子様、加藤里枝様に、導入の背景から効果まで伺いました。

潜在していた「心理的障壁」が最大の課題

―― AIロープレを導入される以前、研修業務においてどのような課題を抱えていましたか?

小松様:
当初想定していた顕在的な課題と、実際に運用してみて分かった潜在的な課題には大きな違いがありました。
目に見える課題としては、まず研修講師の人数の関係で研修生一人が実施できるロープレ回数が限られており、一人前になるまでに約1年という長期間を要していたことでした。また、講師による指導内容のばらつきも課題でした。

加藤様:
しかし実際に導入してみて分かったのは、「心理的安全性」の確保が大きな課題だったということです。研修生は忙しそうな講師にロープレの相手を頼みづらい、失敗したくないという気持ちから練習機会を自ら減らしてしまう。この心理的障壁が、ロープレが進まない本質的な理由だったのではないかと思います。


―― なるほど。人的リソースの問題だけでなく、人間関係における心理的な要因が大きかったと。

小松様:
そうですね。コンタクトセンターに入ってくる人たちは、入社時期もバラバラで、年齢もさまざま。新卒採用のように同期で一斉に入社して「ちょっとロールプレイングをやろうよ」という雰囲気を作りやすい環境ではないんです。

AIが相手になることで、研修生は頼みやすい環境を手に入れました。失敗しても恥ずかしくない、何度でもやり直せる。この環境を提供できていなかったことが、私たちの潜在的な課題だったと気づかされました。

研修領域のAI活用とUI・コスト・フィードバック機能が決め手

―― 本格的にツール検討を始めたきっかけは何でしたか? また、なぜ研修領域に時間を割く判断をされたのでしょうか?

小松様:
2023年当時、生成AIに関する話題が業界内外で増加していた時期で、会社からもAI活用の検討指示がありました。その中で、「生成AIと親和性が高いコンタクトセンターで生成AIを活用できる領域はどこなのか」をずっと考えていました。

そこで浮かび上がったのがコンタクトセンターにおける研修領域での活用です。全通話が録音されている環境は生成AIとの親和性が高く、特に人手をかけて人材を育成する研修領域、ロールプレイングに着目しました。


―― 他社ツールとの比較検討もされたと思いますが、最終的にVideoTouchのAIロープレを選ばれた決め手は何でしたか?

小松様:
決め手は3つあります。
1つ目は、シンプルなUIでロープレが可能という点です。現場の研修担当者が直感的に使えることが重要でした。

2つ目は、AIによるフィードバック機能です。点数化されることで、講師と研修生の双方に納得感が生まれます。感覚ではなく、データで判断できることが大きかった。

3つ目は、コスト対効果の明確さです。投資に対してどれだけの効果が得られるか、経営層への説明も含めて明確に示せることが選定の後押しになりました。

ロープレ回数4倍、研修チームの受電件数153%を達成

―― AIロープレを導入したことで、具体的にどのような効果がありましたか?

小松様:
効果は数値として明確に表れました。
まず、各案件あたりのロープレ回数が1回から平均4回へと増加しました。これは、AIロープレの導入により、従来は時間的制約で 1回しかできなかった練習機会が4回に拡大したことを意味します。

次に、研修チームの受電件数が導入前実績比で目標144%に対して153%を達成しました。講師がロープレ業務から解放されて受電業務に戻れたこと、そして研修生が複数回のロープレを通じて抵抗感なく電話を取れるようになり、OJT(On-the-Job Training)での受電機会も増えたことが要因です

戸倉様:
利用実績としては、8月の導入開始から3ヶ月間で延べ約400回の利用、75名の研修生が活用しています。

―― 予想外の効果や副次的なメリットはありましたか?

小松様:
これが最も大きな効果だと認識しているのですがAIシナリオの設計・運用を通じて、現場スタッフのAIリテラシーが向上したんです。

よく企業で「デジタル人材を育成しましょう」と言って研修を開催したり資格取得を奨励したりしますよね。その点は我々も同じですが、私たちは、さらに実務でAIロープレのコンテンツを作り上げていく中で、自然とAIの特性を学んでいく流れができました。

―― まさにAIロープレが「DX人材育成ツール」としても機能しているわけですね。

小松様:
そうなんです。これは会社としても非常に価値のある効果だと実感しています。

―― 社内展開と今後の方針についてお聞かせください。

小松様:
社内展開では、会社全体の生成AI活用といった雰囲気づくりを重視しています。イオングループ全体のデジタルアカデミーでのウェビナーに登壇させていただいたり経営層も参加される会議でAIロープレの進捗や結果をリリース直後は頻繁に報告したことで、社内で広く認知してもらい、自然と他部署から問い合わせが来る流れを作っています。

現在、複数の部署やグループ企業からも引き合いがあり、今後はグループ企業への展開や他業務への応用可能性の検証を進めていく予定です。

ベンダーと共に育てる姿勢が成功の鍵

―― 最後に、同じような課題を抱える企業様へメッセージをお願いします。

小松様:
教育の属人化や時間的制約に悩んでいる企業には、AIロープレは非常に有効な手段です。
ただ、導入前は厳しく要求水準を見極める必要があります。でも一度導入を決めたら、ベンダーと共に商品を育てていく姿勢が大切だと思います。

まずは小さく始めて効果を確認し、徐々に展開していく。そのプロセスで、予想もしなかった価値—私たちの場合は「実務を通じたDX人材育成」—が見えてくるはずです。
AIの可能性を実感するには、まず使ってみること。そして現場の声に耳を傾けながら、柔軟に運用を調整していくことが成功の鍵だと感じています。

【インタビューご担当者】
イオンフィナンシャルサービス株式会社 コンタクトセンター3部
部長:小松 史貴 様
マネージャー・導入担当: 戸倉 多恵子 様
導入担当: 加藤 里枝 様